2017年3月8日水曜日

野本弥生「料理教室」③

——養生園のキッチンを任せられる前に
先輩に教わったことはどんなことがありましたか?

日数的には二カ月あるかないかですからほんとうに基礎的なことです。
かろうじて酵素玄米の炊き方ですね。
あとは、どこか外で勉強してくる時間もないですから、
本で学んだことを実践することのくり返しです。

「たしか先輩たちはこうやっていたな」と覚えていることを試したり、
「あの袋煮の中身は何だっけ?」と思ったら電話して聞いたり。
先輩は「好きなものでいいのよー」なんていうので、
「それじゃ困ります、ちゃんと教えてください」と聞きだしましたね(笑)。

それよりも大きかったことは、
スタッフやゲストとの会話の中で養生園のありかたを模索できたことです。
養生園が存在する意味を考えれたことですね。
会社員時代には得られなかった価値観がありました。
どっちが大事というよりは、
会社員だったときに見ていた世界はほんの一面だけで、
視野が開けたという感覚でした。

——養生園での仕事はどんなふうにはじまりましたか?

12年前のことになりますけど当時キッチンスタッフは私のほかに、
補助で手伝ってくれる新人の子が一人か二人だけでした。
どの引き出しに何があるのかも分からないところからはじまりました。
朝食を出したら次は夕食、
夕食を出したら次は朝食、
というように生きた心地のしないプレッシャーを感じていました。

養生園は1日2食です。
朝食は10時半からで夕食は5時半からになります。
ホールで時間になったらお客様方は一斉にお召し上がりになっていただきます。
余談ですが、林間学校みたいなんです。
というのも消灯時間があるんです、それも10時なんですね。
夜は早めにお休みくださいというメッセージがあるんです。
ともかく、みなさん1日2食というと不安になり、
お菓子などを持参されますけどほとんど食べずにお持ち帰りになります。

元の料理長だった方は寡黙な方で、
「気持ちを込めた料理を静かにお召し上がりになって、感じてください」
というスタイルだったんですけど、
私はそこまで自信もなく説明しないと不安ということもあり、
料理を出してからもぺらぺらと喋っていました。
元営業ということで経験がいきましたね(笑)。

だけど実際に説明を続けていくと、
いろんな面で理にかなったやり方だということが分かってきました。
まず来園いただく皆様が、
玄米菜食やマクロビオティックといった料理を理解しているかといえば、
そういう方は多くはないんですね。

たとえば「なぜこんなに玄米がもちもちとした食感なのですか?」
なんて質問はよくあります。
その作り方をテーブルごとに一人ひとりご説明するのは時間的にも無理なので、
食事をはじめる前に料理の説明をすることが定着しました。

それから、長野県は山菜も豊富で珍しい食材も使います。
知らずに食べるより、
意識して召し上がっていただくことで
より一層深く味わってもらえると思います。
お料理をおだしして終わりではなく、
会話をすることによって食べていただく方と深い交流ができればうれしい。

——料理の学び方などでアドバイスがあれば伺いたいです。

地場の食材をあつかうお店や、
農家さんに話しを聞くことですね。
たとえば畑で採れたひたし豆をもらったときには
「うちではこんなふうに煮てるよ」なんて教えてもらい、
すぐに試してみます。

——料理の出し方で意識していることがあれば。

養生園は標高の高い場所にあるので夏でも雨が続けばぐっと気温が下がります。
そのため旬の夏野菜が美味しいからといって、
トマトなど生野菜のサラダですと身体も冷えてしまいます。
そういうときは煮物や加熱した料理がおいしく感じます。
あと養生園の食事は一汁三菜と決まっているのですが、
朝は味噌汁、夕飯はスープというように変えることでメリハリをつけています。

——料理教室ではどんなことを伝えたいと思いますか?

旬の野菜の美味しさですね。
2時間の枠ではかぎられますけど、
なぜ旬のものが美味しいのかを伝えたいです。
自然の恵みと季節を感じられる料理を、
一品でも持ち帰ってご家庭で試してもらえたらうれしいですね。

——野本さんの話しを伺っていて思いましたけど、
これまで一見関係ないような経験も含めて、
今にいかしていますよね。
たとえば、最初は不安から料理の説明をはじめたことが、
今ではそれがお客様とつながる大切な時間になっている。
とっかかりが「不安だったから」というのがいいですね。

私は新卒で入った会社でずっと、
自分の基盤を作りたいと思いながら働いていました。
今は料理をやっていますけど、
自分の人生はつながっているんだと考えてみたいですね。

——ありがとうございました。

野本弥生さんの料理監修による
『穂高養生園の週末ごはん』
ぜひ読んでみてください。

料理の盛り付け。

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