2016年10月7日金曜日

アパートを貫通する風

ぼくの部屋には北側にひとつ窓があります。
ぼくが好きな、アルミサッシの窓です。

ぼくはアパート住まいなんですけど、
自分の部屋というものがあります。
2LDKのメゾネットタイプで、
一階の玄関を開けるとすぐ階段になっています。
二階がLDKになっていて、
三階の二部屋に寝室とぼくの部屋があります。

妻には自分の部屋はありません。
彼女が居間の飾り付けなどを含めて自由に使うという条件で、
ぼくは自分の部屋を勝ち取りました。
結婚をして引っ越しをする前から
ぼくは自分の部屋が欲しいと主張していました。

しかし今、このアパートに引っ越してきて二年近く経ちますけど、
自分の部屋というものがいつの間にか無くなっていることに気付いた。
ぼくがなぜ自分の部屋に執着しているのかというと「自分の時間の確保」です。
ぼくは自分の部屋をシェルターのような、
内側からしか開けられない密室空間をイメージしていました。

結婚をしても、子供が産まれても、世界がどう転んでも、
「自分の時間の確保」だけは主張したかったんです。
一人の時間=アイデンティティの確保という考えがありました。

しかし子供が産まれた今、
部屋に閉じこもってさえいれば「自分の時間の確保」ができると思ったら
大間違いだということを知りました。
たとえ扉を閉じていたとしても関係なく。

「パパー!パパーー!!」
と大きな声がぼくを呼ぶ。
当然四ヶ月の娘じゃありません。
妻が寝室からぼくのことを呼んでいる。
娘が目覚めたので、娘の代わりに呼んでいる、というのです。

パソコンから振り向いて、南側の部屋の扉を開けると、
まるで外に出たみたいな風を浴びる。
寝室の扉は開いていて、
正面の寝室の奥のベランダにつながる建具も開け放ってある。
ぼくの部屋の扉がせき止めていた風は、
アパート二つの部屋を貫通して部屋中に風が踊りこみ、
これが水なら水浸しというように、風浸しになる。

ぼくはしばらくその風を浴びてボーと立つ。
いつも開けっ放しにしておくと
アパートには屋根も庇も短くて雨が降ったときは、
窓周りがひどく水浸しになるから気を付けないといけない。
ほんとは出かけるときも開けっ放しにして、
いつも空気が流れている状態だったらいいなと思うんですけど、
短い屋根と庇のせいで出かける前には戸締りのチェックが必要です。

ふいにドアが風圧のせいで大きな音を立てて閉まる。
ボーとしていたぼくはそれに驚く。
赤ん坊も驚き、妻も驚くけど、
学習せずに同じことを何度もやってしまう。

これは気密性が高い住居に起きる現象みたいです。
ぼくが好きなアルミサッシも原因の一つです。
これまでぼくはほとんどの人生を木枠の家で過ごしてきました。
木枠の家でこんな現象はありませんでした。
木枠の家にあることは、隙間風と雨漏りです。
ピッツェリア・オーシャンもわざと古木を使って木枠で仕上げてあります。
一見おしゃれなのかもしれませんが、
ぼくからすると「アルミサッシのが快適で楽だよなー」です。

結局、ぼくは何の話しがしたいということもなく、
ドアを閉めているからといって「自分の時間の確保」ができるわけではなく、
ドアを開けているからといって風圧で勝手に閉じられるんです。
ドア一つだって思い通りに開け閉めができないのに、
ブログを書くことやピザを焼くことが思い通りにいくものかと、
これは部屋を貫いていった風神の落としものの啓示なんですかね。

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