2015年10月20日火曜日

コーエン兄弟の撮るドラマ

『ファーゴ』ドラマ版を見ました。
コーエン兄弟が20年前に作った映画をもとにして作られたドラマです。
映画も当時見ましたけど、
特に面白かったという記憶はなく、
コーエン兄弟映画が好きだったわけでもありませんでした。

だけど数年前に『ビッグ・リボウスキ』を見て、
こんなに面白い映画があったなんてなんで今まで知らなかったんだ、
と思いそれからコーエン作品を次から次に見はじめました。

どの映画にも血塗られた冗談が詰まっています。
『バーン・アフター・リーディング』も
『トゥルー・グリット』も
『オー・ブラザー!』も
残酷なのに、笑ってしまいます。
音楽もよくて、
監督の演出なのか俳優が他の映画で見る個性とは
また別の個性を出しているように見える。

映画は2時間そこそこしかないのに、
『ファーゴ』ドラマ版は1話60分で10話で600分です。
600分っていうことは6時間ではありません、
10時間です。
10時間もコーエン兄弟のブラックな笑いとサスペンスが楽しめます。
しかも今アメリカではシーズンⅡが放送されてるそうです。

このドラマの面白さ、というか引き込まれるところは、
ローン・マルヴォという殺し屋の尋常じゃない怖さです。
だんだん、警察がかわいそうになってきます。
警察がマルヴォを追い詰めようとするんですけど、
見ているほうは「早く逃げたほうがいい!」
と警察の心配ばかりしてしまいます。

というのは、
この『ファーゴ』の中のミネソタ州の田舎警察が弱いからです
(副署長のたくましい女性を除いて)。
だけど弱い警官のガスを見ても「警察なのに何してんだよ!」とはならず、
犯人を逃してしまう臆病な自分に悔しがるところなんかは人間味があって、
むしろ好きになります。

このガス・グリムリーという警官(後半は転職して郵便局員)の弱さが、
後半バネになって活躍します。
普通のハリウッド映画だったら弱い警官に変わって強い警官が
登場すると思うんですけどそうじゃないところが秀逸です。
弱いガスが立ち向かうところに拳を握ってしまう。
全部見終わると、ガスの後悔からの活躍にはドラマがあったなと、
魅力的な印象に変わります。
見終わってからウィキペディアで調べてみると、
この俳優はトム・ハンクスの息子でした。

『ファーゴ』は他のドラマと比べると登場人物が少ないと思います(たぶん)。
死ぬ数が多いから少ないと感じるのか?
実際、シーズンの終わりにはほとんどの主要人物が死んでます。
そして物語の中で死んでいく人物にも関わらずそれぞれが印象に残る。

普通、物語の中で死んでいく人物はあまり個性を残さない、
というか死ぬということは生き続ける人物よりも単純に映る時間が短いから、
記憶に残りにくいはずなんです。
だけどコーエン兄弟の手にかかると、数分の登場時間の人物も強く印象に残ります。

たとえば、
何話だったか忘れましたが犯罪組織「ファーゴ」のボスが登場する前、
中華の料理人が大きな魚に小麦粉を振って丸ごと揚げます。
大皿に揚げた魚を載せておたまで餡をたっぷりかけると、
まっすぐ手下と会議中であるそのボスのテーブルに運ぶ。
超凶悪な顔をしたボスは「(マルヴォを)殺せ!」と一言命令して、
大きな魚の頭にフォークをぶっ刺し、
荒っぽく正面からかぶり付きグチューっと吸います。
わずか登場時間10秒でその後すぐに
ボスは乗り込んできたマルヴォに殺されるんですけど、
短い時間に圧縮されたコーエン映像です。

2015年10月7日水曜日

ドリップコーヒーのワークショップ

来週は〈カフェ プレインソレイユ〉による
コーヒーのワークショップ「Journey of coffee」が開催されます。
コーヒーのWSはオーシャンにとっても、
プレインソレイユの宮地さんにとっても初めての試みです。

スタッフ内の勉強会では何度か凄腕のバリスタを招いて、
カプチーノ講習をしていただいたこともありましたが、
今回はドリップコーヒーのワークショップです。

“コーヒーを淹れる”という習慣は今の日本では、
“納豆をかき混ぜる”並みに常習化しているんじゃないでしょうか。
美味しいコーヒーの淹れ方の情報は、
得ようと思えば本でもWeb上からでもいくらでも出てきます。

その、日常にありふれた“コーヒーを淹れる”という行為を、
わざわざワークショップを通して学ぶ意味とは何か?
ぼくは、ワークショップの楽しさは交流だと思ってます。
もちろん参加者同士の交流も生まれれば、
講師である宮地さんという個性との交流を通してコーヒー職人の奥深さを知れる。
どれだけ自分に真剣であるか。
宮地さんという人を見ていると
「自分に真剣であるか?」という問いかけをぼくははじめてしまいます。

「自分がいる業界のことにどれだけ精通しているのかが
その道で成功できるかどうかを分ける」
とこないだ読んでいた本に書いてありました。
宮地さんはコーヒー業界のことを面白く語る。
知識があって、それは足の軽さからやってくるのか、
関東から関西、
名だたるコーヒー職人が淹れたコーヒーを語る。
その活き活きとした話しからはコーヒーの香ばしさが漂ってくるみたいで、
生唾をごくっと飲んでしまう。
毎回宮地さんに会うたびにぼくは勉強させていただき、
自分の仕事への気持ちも奮い立たされます。

宮地さんの個性は、
コーヒー家として生き方を決めているところから滲み出ています。
生き方を決めた人は話しが明快です。
迷いのない言葉は、
聴く人にとってカフェインのように目を覚ます力があります。

今回のワークショップではコーヒーのお供に、
ぼくはシナモンロールを石窯で焼かせていただきます。
ぜひお楽しみにしてご参加ください。

2015年10月2日金曜日

サマータイム営業終わりました

今年のサマータイム営業も九月一杯で終わりました。
長かったー。
毎年この三ヶ月が長くて
「何で営業時間長くしてしまったんだろう」と、
やっぱりやめとけばよかったという気持ちになります。

だけど冬にかけての閑散期を通過するといつも、
「やっぱり夏場に仕事をしなければ!」
といつの間にか目に炎が燃えはじめてるんです。
毎年その繰り返しです。

こないだ東京のイタリアンレストランを経営するシェフの本を読んでいたら
こういうことを言っていました。
「週末の表参道は目が回るほど忙しいのに、
平日は拍子抜けするほどヒマになったりする。
その極端なリズムを変えたくて、
自分の店を出すときはなるべく安定した場所を選ぼうとした」

オーシャンもこの極端なリズムの中にあります。
ぼくはここで働きはじめてから今年で5年になりますけど、
いまだに忙しい日とヒマな日の切り替えで混乱します。
平日と週末は「別の仕事」をしているみたいな。

平日と週末は小さなスパンとして
(もっと細かなスパンでいえば晴と雨)、
大きなスパンでは冬と夏という切り替わりがあります。
海といえば、冬はオフシーズンで夏がハイシーズンのイメージ通り、
オーシャンも季節によって売上が何倍も変動します。

こういう“よめない未来”は不安になりますし、
極端なリズムに疲れますから、
東京のこのレストランが安定した客足を求めて立地を決めたのは
すごく納得がいきます。

ここのシェフの相葉正一郎さんという方は表参道でコックをしてから
代々木で独立して“自然なリズム”を獲得できたようです。
〈LIFE〉というお店で、たまたま本をAmazonで見つけて読みました。
いつか行ってみたいお店です。

それにしても読んでいて思いましたけど、
都心の真ん中の表参道と代々木というちょっとした距離にでも
(ちょっとした距離ですよね?)
こういう極端なリズムで悩むことがあるんですね。
ぼくはオーシャンが田舎立地で辺鄙な場所だから、
来店者の極端な波はもうしょうがないものだと決めつけていました。

だけど幡豆も東京も似たような悩みがあったんだと思うと、
ちょっと解放されます。
どこに行っても一緒なんですね。
まあ解放されてそれで済むかという、何の解決にもなってませんが……。

秋から冬にかけて、居心地の良い店造りをしていこうと思っております。
ピッツェリアはこれまでずっと露天スタイルのお店でしたけど、
「露天」から「お店」に変わる計画を進めています。

今お客さんがピッツェリアにご来店されるとき、
玄関扉を開けるわけでもなく、
暖簾をくぐるわけでもなく、
どうやってお店に入るかというと窓から入っていただいてます。

ピッツェリアの入口は現在折りたたみ窓に無理やり取手をつけた状態です。
二年間、みなさま方には窓から入っていただき、
こういう気持ちを噛み殺していたんじゃないかと推測します。
「おれたちは泥棒じゃねえぞ、客だぞ」

それが今年中には玄関を構えられるかもしれないです。
まだスタッフ同士で話し合いながら、
工事をやってくださる方に相談している段階ですけど、
居心地の良いお店ができるんじゃないかと、楽しみな毎日です。