2015年11月17日火曜日

文豪札

一ヶ月ほど前から、
「完成してから発表しよう」
と一人で地道に進めている計画があります。
こんなに楽しいアイデアを完成前に言いふらしたりなんかしたら、
誰かに真似されるんじゃないかとぼくは心配でしばらく黙っていました。

しかしよくよく考えたら、
こんなアイデアを実行する物好きはまずいなさそうだし、
むしろ真似なんかだれがするもんかと言われそうで、
ようやく頭の熱も冷めてきました。

どんなアイデアにしてもだいたい思いついたときは興奮して
ヤル気が湧いた状態になりますけど、
時間が経つと落ち着いて現実化に至らなかったということは
自分のことでも思い返してけっこうあります。

しかし今回のことは時間が経っても
「これを完成させるぞ!」という気持ちも薄れず、
できれば自分と同じように完成を楽しみにしてくれる人がいたらいいなと思って、
アイデア実現宣言のためにもブログに書いとくことにしました。

え?
それでどんなアイデアかって?
あー、言いたい。
早く言いたいですけどちょっと待ってください。
しぶっているわけではありません。
ただなぜぼくにとってこのアイデアが画期的に思えたのか、
その過程を知ってもらわなければぼくの気持ちの高ぶりも伝わりません。

これは〈石窯ピッツェリア・オーシャン〉にとっての三年越しの問題です。

ピザが焼けた。
さあお客さんのところに届けよう、火傷するかもしれない熱さのまま、
冷めないうちにまっしぐらにお客さんのところに届けよう!
——伝票にはお客さんの名前と特徴がメモしてある、
それを確認してお客さんを探す——
ピザを持って急ぎ足でデッキに運んだけどここじゃなかった。
このピザのお客さんは……どこだ!?
右往左往する。
ピザ冷める。

未熟な飲食店の典型です。
最近はこういう事態も少なくなってきたものの、
忙しい日は運ぶ場所を間違えて最短時間で届けられなかったりする。
こんなことでピザのいちばん美味しい状態が過ぎてしまうのは残念すぎます。

番号札はどうした?
テーブルの上に数字の入った立札の目印を置いておけば探しやすいじゃないか?
まずはそう考えました。
しかしオーシャンのスタッフの中には
「自分が番号で呼ばれるのは気持ちよくない」
という人が複数人いたこともあって、
この問題を保留にしていました。

ヒントはカリフォルニアのハンバーガーショップにありました。
パティに使う肉にこだわった店で、
チェーン店というほど大きな規模ではありませんが、
カリフォルニア内に何店舗かあります。

ここでぼくはアーティチョークとゴーダチーズのハンバーガー、
フライドポテト付き$9.88を注文しました。
そこで店員に渡されたのが写真立てです。
写真立てにはエルヴィス・プレスリーの顔写真が入っていました。

つまりこの写真立てをテーブルに置いておくと、
「お待たせしました、ミスター・プレスリー」
と若いウェイトレスが肉汁滴るハンバーガーを運んできてくれるというわけです。

周りのテーブルを見渡してみると、
ジミー・ヘンドリックスやマリリン・モンローの写真立てが置いてありました。
安っぽい、なんの変哲もない白いプラスチックの写真立てです。
だけど番号札を渡されるよりは、
テーブルで待っている間もしかしたら話しのタネになるかもしれませんよね。

はじめてのデートがこのハンバーガーショップのランチで、
緊張の沈黙から抜け出る糸口を、
写真立てのマイケル・ジャクソンが担ってくれることもあるはずです。
その写真立てのおかげで、とある男女は仲良くなり結婚して、
産まれてくる子供だっているはずです。

そんなふうに、番号札に子供を産ませることができるでしょうか?
きっとできないでしょう。

銀行とか役所の整理番号にもそんな小ネタが仕込んであれば、
「そんなことに経費を使うなら手数料を安くしろ!」と、
批判をするクレーマー同士のとある男女が知り合って、
仲良くなり結婚して子供を産むことだってあるでしょう。
きっとあるでしょう。

そういうわけで、
ぼくは子供の出産率だけにとどまらず、
何かのきっかけになる思索的な奥深さのある札が欲しいと思っていて、
ついに思いつきました。
それは文豪の顔写真を入れた写真立てを渡して、
番号札ならぬ文豪札にしようという目論見です。
〈つづく〉

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