2015年6月9日火曜日

小麦畑でピクニック

昨日は滋賀県日野町の小麦農家でパン屋さんでもある大地堂が主催する
『小麦畑でピクニック》に参加してきました。
こちらの社長である廣瀬さんが作る小麦は、
9000年前からヨーロッパで栽培がはじまったといわれるスペルト小麦です。

この古代小麦は品種改良が施されていない原種で、
ということは9000年前の狩人たちが食べていたものと同じものです。
そんな古い食べ物が他にあるのか知りませんけど、
古代小麦と聞くとなにか壮大な気分になります。
紀元前七世紀をウィキペディアで調べてみると、
マンモスが絶滅した辺りだということです。

このスペルト小麦を廣瀬さんが日野町で栽培をはじめたのは十六年前で、
現在は十トン近くのスペルト小麦を作っています。
来年は十五トンにするということで、
スペルト小麦を継続して作り続けることに廣瀬さんは情熱を燃やしています。

廣瀬さんの栽培するスペルト小麦は現在東京や広島、
大阪のパンの有名店でも使われていて、
その栄養価の高さ、風味や味わいの価値が見直されています。
栽培面でも麦の殻が頑丈で、
つまり虫にも強いので無農薬または減農薬での生産が可能だということです。

このスペルト小麦畑でピクニックをするというのです。
マンモスときわきわの歴史があるスペルト小麦を使ったパンでサンドイッチという
世界史と現代史をサンドイッチにするようなピクニックです。
壮大でかつ平和です。

しかもこのサンドイッチの中身は猪のパテでした。
この猪は廣瀬さんが鉄砲で打って、
夫婦で川で解体して、
ビストロを経営する川田さん(ピクニックにも参加)がパテにしたものです。
猪の赤身とフォアグラとピスタチオのパテ。
壮大で平和、かつ豪勢です。

小麦畑はきれいな緑色で、
これから色付いていくようです。
「これから黄金色に光る小麦畑になるんですね」と廣瀬さんに聞くと、
「いや、ディンケル小麦(独名)は茶色でそんなにきれいではない」
と言いました。

参加者は十名で、
小麦畑の真ん中に組み立て式のお立ち台のようなものがあり、
そこの上に座ってランチをします。
脚立を立てかけてその広いお立ち台のようなところに上がります。
1・5メートルぐらいの高さでしょうか。

「ここに腰掛けると丁度コンバインに乗った高さになるんだよ」
と廣瀬さん。
ぼくらはそのお立ち台から足をぶらぶらさせて、
コンバインに乗って小麦を刈り取り収穫する風景をイメージする。

「小麦畑を上から見下ろすと風が見えるんだよ」
廣瀬さんに言われてぼくは風を見ようとしました。
均一の高さに揃った穂を風が撫でる。
手前の穂は左に風を受け、
ちょっと視線を先に送ると穂は動かず直立していて、
またさらに遠くの方では風を受けて傾いている。
たしかに、風が流れている場所と、
流れていない場所が見えます。

「あ、雨がきそうだから今のうちに食べよう!」
と廣瀬さんは風を読んで昼食の準備をはじめました。

この後廣瀬さんのお宅に戻り、
玄武岩で作られたドイツ製の特注の石臼を見せてもらいました。
「これがウチの宝だ」と廣瀬さん。

玄武岩は石の中の気泡が大きくて、
摩擦熱がこもらず小麦を劣化させないそうです。
小麦の味の総量を10とすると、
熱によって1か2割損なわれてしまう。
廣瀬さんはこう言います。
「私の仕事はこのスペルト小麦の味をほとんど10に近い状態で、
みなさんに届けることです」

朝から夕方まで小麦にまつわる話しをしっかり聞いて、
ぼくはこの挽いたばかりのスペルト小麦を少量いただき、
早速帰ってピザ生地の酵母を作りました。

ぼくはピザ生地をポーリッシュ法で仕込んでいるんですけど、
その液種にスペルト小麦を使ってみたかったのです。
液種は粉と水とイーストで作ります。
このうちの粉を変えることで、
焼きあがったピザ生地の味と風味に変化があるのかないのか、
という試作です。

今オーシャンで出している生地の液種は無農薬の小麦粉で作っているんですけど、
一般流通の小麦と比べると風味と膨らみが違います。
複雑な発酵臭と、膨らみは1・3倍ていど上がりました。
無農薬の小麦は残留酵素が多いことでこの結果の違いが出るのだと思います。

膨らみが強いとより少ないイーストで同じ量の粉を膨らませることができます。
ぼくが今作っているピザ生地のイースト量は、
10キロの粉に対してイーストは8グラム(0.08%)です。

イーストが多いと菌同士が餌の取り合いになり、
膨らむけど風味が出ない。
だけどイースト菌が少なすぎると今度は食べ過ぎで栄養過多に陥り、
これも膨らまなくなる。
丁度良いイースト菌の量で、餌をたくさん食べて円満な状態を作る。

こういうことに最近は取り組んでるんですけど、
これをスペルト小麦にしたらどう変わるのか、
一味違う生地ができそうで楽しみです。


スペルト小麦畑

超ぶ厚い猪のパテとカンパーニュ

ドイツ製の玄武岩を使った石臼



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