2014年9月29日月曜日

パンツのお礼

Rちゃんはオーシャンによく来てくれる子で、
二十代後半のかわいい女の子です。
こないだ来てくれたときに僕が、
「すっかり秋風が吹いてきたねー。
十代の頃は強い秋風で女子のパンツがめくれるのが楽しみだったなー」
と感慨深げにつぶやくと、
Rちゃんはスカートがめくれた思い出話をしてくれました。

「私が高校生だった頃……」とRちゃん。

下校中コンビニに寄ろうとした時に、
強い風が吹いて、
勢いよくスカートがめくれあがったから
パンツ丸出しになったことがあって。

急いでスカートを手で押さえて
『げっ、誰かに見られてないかな』って周りを見渡したら
向かいの歩道からじーっとこっちを見てる人と目が合って。
20代前半の大工の格好をした若い男と。

ガーン見られた、くそう……と思いながら
逃げるように近くのコンビニに入ったら、
その男も後ろから付いて来て。

『何この人、気持ちわる……』って
怖くなってすぐにレジにならんだの。

『◯◯◯円になります。』って店員さんが
言ったから財布をだそうとしたら、
サッとその男が隣に来てね、
なんとね、お金を出してきて。

『え?』ってその人をみるとその人は穏やかな笑顔で
『いいよいいよ。ありがとう』って。
って、言ってないんだけど。
言ってないんだけど、
笑顔から感謝の気持ちが強く伝わってきてね。

それならってことで、
『ありがとうございます』
っておごってもらったの。
そして最後はその人
笑顔でお見送りまでしてくれたんだ。

——ふーん、何を買ってもらったの?

うーん……。
あんまり思い出せないけど
確かおにぎりとお茶ぐらいだったから、
私のパンツは数百円ってことか。

上出来だね。

——……うん、良い仕事したね。

2014年9月25日木曜日

一足しか靴を持ってこない旅行者

先週オーストリアから来ていた三人のウーフーが出て行き、
代わりにハンガリー人のマークがやってきました。

色んな人間がうちにやってくるということは
色んな人間がうちの玄関を上がってくるということで、
それは色んな人間の靴を見るということになります。

色んな人間の靴を見ていて分かったことは、
旅行者には二タイプいるんだなということです。
靴を複数持ってくる人間と、
靴を一足しか持ってこない人間です。

みなさんはどうでしょうか。
旅行に行く際に靴は何足持って出かけるんでしょうか。
僕は二足が多いです。
一足は移動用の歩きやすい靴で、
いつもニューバランスの靴擦れしにくいスニーカーを履いて行きます。
もう一足は部屋履き用のビーチサンダルです。
薄いので荷物でかさ張らないところが良いです。

こないだうちに来たオーストリア人たちの三人グループは
平均して一人三足以上持って来てました。
これはとある日の玄関の光景です。



コンバース、H&M、ナイキ、ディーゼル、キーンなどなど。
もう手前の入ってすぐの場所しか空いていないので、
家に上がるためには大股で跨がなければいけません。
これだけ靴があると邪魔です。
だけど邪魔は邪魔ですけど、
靴を一足しか持ってこないウーフーに比べると彼らは、
玄関がごちゃごちゃになるぐらいの迷惑しかかけません。

靴を一足しか持ってこないウーフー。
おい君たち、
とぼくはここで言っておきたいと思います。
一足しか持ってこないのは構わないけど、
人の靴を勝手に履くんじゃない!

ここ最近来たウーフーの中で靴を一足しか持ってこなかったのは三人います。
スペイン人のホセと、
ドイツ人のレアと、
香港系アメリカ人のインです。
今年の春から九月までで十一人うちに来ているので、
約三割が靴を一足しか持ってこないという確率になっています。

スペイン人のホセ。
彼はきれいな白いスニーカーを履いてうちにやって来ました。
底が薄くて先が尖り目のイタリアっぽいスニーカーです。
彼は畑の作業靴が無いために借りたいというので、
僕はメーレルの防水スニーカーを貸してやりました。
平日は僕のスニーカーをドロドロにして畑仕事に精を出し、
休日彼は自分のきれいな白いスニーカーを履いて
名古屋へナンパに出かけていました。
全然構いません。
いいことです。
プライベートを楽しめればこそ仕事も頑張れるというものですから。
それに、ドロドロになって玄関に脱ぎ捨ててあるメーレルを見るたびに、
「ここまで使い込まれたら靴も本望かな」とも思いました。
しかしホセ、
人の靴を履いてスペインに帰るってどういうこと!?
ラテン系はお気楽な性格だというけど、
お気楽にもほどがあるぞホセ!

香港系アメリカ人のインは借りパクほどのことはしていません。
彼はナイキのマジックテープが付いたバッシュ一足で来ました。
身長の低い彼は遠くから見ても近くから見ても中学生ぐらいにしか見えません。
足のサイズも小さく、たぶん25センチぐらいでしょうか。
彼のえらいところは一足しかない靴を汚れたらマメに洗うところです。
しかしスニーカーというものは洗えば日向で干しても
約二日間はかかる代物です。
その間どうするかというと、
僕のゴム長靴とサンダルを履いていました。
僕がそれに気付くのはいつも仕事中の時です。
インがそばを通ったときに違和感があって足下を見ると
それが僕の靴でした。
「それおれの靴じゃん!」と言いかけましたけど、
ピザも焼いてるし、靴ぐらいでグダグダ言うのもなと思い黙りました。
それに、
小さな彼がゴム長靴を履くとまるで釣りに行くみたいに膝上サイズになり、
ぶかぶかのサンダルは脱げないように足を引きずって歩くことになっていたので、
むしろ気持ち的には「見守ってあげたい」そんなものが湧いてきました。

ドイツ人のレア。
ドイツ人は一貫した性格を持っていると言うけど、
彼女はほんとにその通り一貫した行動を取りました。
頑なに、徹底的に、鉄の意思で自分の靴を履き替えることもなく、
履き潰しました。
それだけ頑固な人種にはやっぱりベンツみたいに丈夫な車じゃなきゃ“もたない”か、
というのが感想です。
だけど当然スニーカーはベンツみたいに丈夫じゃありません。
彼女のスニーカーは黒色で、一部に合皮を使ったものでした。
底は薄くて軽そうなスニーカーです。
レアがオーシャンに来た当時靴は健康そのものでした。
合皮には艶があり、黒い布地の部分には張りがありました。
一ヶ月ほど経つと艶は失われて、布地はたるんできました。

ある日僕は玄関先に黒いゴミクズを見つけました。
ウーフーたちは毎日畑から泥も持ち帰ってくるので、
掃き掃除は定期的にしなければいけません。
その黒いゴミクズ、最初は気にも止めませんでした。
だけどその日を境に黒いゴミクズを玄関周辺で頻繁に見るようになったのです。

玄関扉を開いて靴を脱ごうとすると、
足下にその黒いゴミクズが落ちています。
親指大ほどの大きさで「、」のような形で土間に落ちています。
僕は何か考え事をしながら帰宅して
その黒いコンマのような形のゴミクズを見つけると、
ほんとに考え事にもコンマを打たれたような効果がありました。
「ビールを飲んでからシャワーを浴びよう」が、
「ビールを飲んでから、シャワーを浴びよう」に変わるのです。
一瞬、間を、空けられるのです。
「何だこのゴミ?」
一瞬の効果なので、僕はすぐにいつも通りの自分のルーティーンに立ち戻ります。
ビールを飲んでシャワーを浴びる。

しばらく無視してたんですけど、
そんな一瞬の効果も何度か続くといい加減に正体を突き止めたくなります。
いつものように夜九時過ぎに帰宅すると、その日も黒いコンマを見つけました。
僕はしゃがんでその黒い物体を間近で見ることにしました。
黒いゴミクズには泥や砂が付着しています。
その横を見るとレアの黒いスニーカーがありました。
いや、もう黒とは言えません。
泥と砂が何層にもなって乾燥して、
イスラム圏の土壁の家みたいに黄土色がかっています。
その泥と砂の隙間にわずかに残った黒い合皮が見えます。
ひらひらと剥がれている部分、
千切れた部分、
下地が出ちゃってる部分があります。
その黒いコンマは、スニーカーから剥がれた黒い合皮でした。

僕は生まれてこのかた、
スニーカーのパーツがこれほど削り取られて履き潰されるのを
見たことがありませんでした。
無慈悲なるドイツ人、
黒いゴムの切れ端とその横に並んだスニーカーを交互に見てそう思いました。

それからまた一ヶ月ほど経ち
帰国数日前にそのスニーカーは寿命を迎えました。
僕から言わせるとよくぞそこまで耐えたスニーカーよ、です。
靴の先端は穴が開き、
ソールは剥がれて歩行すらままならない状態になりました。
僕の仕事中にレアが現れてこう言いました。
「ごめんなさいイッシン、サンダルちょっと貸してくれる?」
彼女は僕のビーチサンダルを履いていました。
僕は「あげるから履いていていいよ」と言いました。
レアは「そんなの悪いからいいわ、貸してくれるだけでいいの」と言いました。
彼女は遠慮するので僕は「まあどっちでもいいよ」と言いました。

「ちょっとの間借りるわね。ありがとう!」と。
どっちにしろ僕には分かってました、
その後彼女が僕のビーチサンダルを履いてドイツに帰ると。
もちろん彼女はそうしましたし。

2014年9月16日火曜日

ああジュリア、言葉少ななジュリア

しばらくウーフーについて書いていませんでしたけど、
ドイツ人のレアが三週間ほど前に出て行きました。
その後にイタリア人のジュリアと、
オーストリア人の三人グループが来ました。

ジュリアは元々チェンジョという小さな街にいて、
四ヶ月前に日本に来てから、
京都の大学で鳥の研究をしているそうです。
彼女はたった数ヶ月で日本語を覚えて、
なに不自由無くコミュニケーションが取れました。

だけど彼女は一週間だけの滞在で、
何で鳥を勉強しようと思ったのかとか、
どうしたらそんな短期間で日本語を使えるようになったのかとか、
聞こうと思ったことを聞く間もなく去っていってしまいました。

僕とウーフーたちの会話の時間は主に朝食の席と晩の遅い時間です。
真夏時の畑仕事は遅くとも七時頃には開始するので、
だいたい彼らは六時頃に起きはじめて
六時半には自転車で畑に向かって行きます。
うちから畑までは自転車で十分ほどです。

というものの、ほんとんどのウーフーたちに当てはまるのは、
彼らが朝食よりは睡眠を選ぶことです。
彼らは時間ギリギリに起き出してすぐに顔を洗い、ハミガキをして、
「イッテキマース」と急いで家を出て行きます。
僕は台所で朝食をとりながら「行ってらっしゃーい」と送り出します。

昼にウーフーたちは畑から店にまかないを食べにきます。
だけどお昼時、僕は仕事真っただ中なので
挨拶を交わすていどで、
彼らはまた午後の仕事に戻り夕方の五時頃には帰宅します。

僕が仕事を終えて帰宅するのは夜の十時前後で、
このときだいたい彼らは寝床につくところか、
あるいはもう消灯しているので、
一日まるで言葉を交わさないことが普通です。

稀に彼らが朝食に早く起きて来たりとか、
晩にコンビニで買ってきた酒を飲んでいたりするのに遭遇したときに、
僕らは台所でコミュニケーションをとることができます。

ジュリアに関してはそういう遭遇が一度も無く、
職場でも忙しくて挨拶できるていどでした。
彼女は背が僕よりも高く170センチ以上あり、
足は僕のヘソの辺にあるんじゃないかというぐらい足が長かったです。
髪の毛は灰色がかったヘーゼルナッツのような色で、
しっかりと相手を見つめて言葉を交わすところに意思の強さを感じます。
だけどどうやら彼女は奥手らしく、
家では静かに部屋に籠っていました。

ジュリアのいる間、
香港系アメリカ人のインも二ヶ月弱の滞在でまだうちにいました。
ただ彼は完全なオタクで、
部屋でPSヴィータのゲームをやっているか、
家にAmazonから毎日届く漫画の整理をしているかのどっちかです。
オクテとオタク二人の滞在時期、うちはとても静かでした。

先週からウィーン大学の日本語学部に通う三人の
オーストリア人グループがやってきました。
彼らは控えめでありながら社交的なほうで、
日本人っぽいところがあります。

しばらくブログを書いていなかったので、
自分の文章によそよそしさを感じます。
毎日書いていると考えもせずスラスラ書けるんですけど、
運動をせずに体が固くなるのと同じ状態かもしれません。

僕は先月から毎朝魚屋さんに通ってます。
今日は太刀魚とヒラメとヤリイカを買いました。

2014年9月3日水曜日

ブログに取り憑かれた男

「彼女の体からはシャワーと共に流されてしまった何かがあった」

閉店間近にK氏がそうつぶやいた。
夜の九時前、外は雨がしとしと降っていました。
K氏はダークラムのレモンハートをロックで飲み、
僕は皿を洗っていました。

K氏はデリヘル嬢について語りはじめました。
「終わりまで行く必要があった」とK氏。
どんな物語にもエンディングがあるように、
自分の行いにピリオドを打つ必要があった。

K氏が岡崎市のデリヘル店〔ラブ&ジョイ〕の
Aちゃんのブログを読みはじめたのは半年ほど前からでした。
彼女のブログは読者ランキングの上位に入っていて見つけたそうです。
デリヘル嬢の生活への興味心から読みはじめたのだけど、
投稿を読むにつれて益々彼女のことが気になっていき、
とうとう毎日読むのが習慣になってしまったと言うのです。

——何がそんなに魅力的だったんですか?
官能小説みたいに欲情するとか?

「そうじゃない、ぜんぜん違う!」K氏にちょっと力が入りました。
「そういう性的な興奮とかじゃないんだ。
彼女の人柄というのか性格というのか、
文章に自己分析もある、お客さんへの気遣いも伝わってくる。
とにかく純粋に仕事に向かい合ってるんだ。
何でこんな素直な子が風俗嬢をやっているんだ?とおれは疑問に思ったよ。
蔑んでいるわけじゃなく、普通に疑問に思ったんだ。
どうしてこんなに仕事に献身的なんだろう、ってね。
Aちゃんのブログからは意欲が伝わってくるんだ」

——すごいですね、デリヘル嬢の日常のブログから
そこまで感じとることができるのが。

「ブログを読んでると『がんばれ、Aちゃん』って応援したくなるんだ。
それで半年間欠かさず、おれは彼女のブログを読み続けたよ」

——欲情はしないけど応援をしたくなる、
AKBのファンみたいですね。
その間彼女を指名しようという気持ちにはならなかったんですか?

「それが一度も思わなかったんだ」
そう言ってK氏はレモンハートを飲み干した。
話題はともかく、仕種だけはキマっています。

その日僕は店を閉めて帰宅してからも、
そこまで男に好印象を与えるデリヘル嬢Aちゃんのことが気になって
仕方がありませんでした。
僕はすぐK氏から教わった通り、
パソコンから風俗情報サイトのヘブンネットを開き、
Aちゃんのブログを検索してみました。

すぐに見つかりました。
名前で検索するとトップに出て来ました。
22歳のAちゃん。
人気デリヘル嬢です。
一番最近の更新は、今僕がこのブログを書いているのが一日の午後五時ですけど、
つい二時間前に「おはよーございます★」という
お目覚め投稿があったばかりです。
彼女はこれから出勤のようです。

プロフィールを見るとあられもない下着姿の彼女がにっこり微笑み、
色んなポーズの写真が並んでいます。
出勤時間が16時から3時と書いてあり、
スリーサイズや得意技などが表記されている。

早速僕は彼女の過去の投稿記事を読みはじめました。
スクロールしていくと驚くのがそのマメさです。
毎日欠かさず十数件もの投稿があります。
その内容は過激かつかわいくそして謙虚です。
僕も読んでいてついつい気付かぬうちに数十分過ぎていて、
いつのまにか彼女に好印象を持っていました。
例えば彼女の投稿はこういう感じです。

「A今から帰宅しまーす♥
送迎なう♥
今日ははじめてさんに出会えてとってもハッピー♥」

初めてのお客さんのことをはじめてさんと言うそうです。
忙しい日はこんな喜びのコメントが一日に数件あったりする。
常連さんへの感謝のコメントもぬかりがなければ、
たまに来るお客さんへも感謝の気持ちを綴られている。

「いつぶり?ってぐらいの久しぶり具合だったね笑。
Kシティーホテル久しぶり過ぎてびっくりw
今日はAがせめまくった♥
お昼からフットサルってゆってたけど
まだ起きてるかなー?♥笑
早く寝ないと昼暑くて倒れちゃうよ?笑
大丈夫?m(__)m笑
ありがとうございました」

と、このタイムリーな(きっとホテルから出てすぐ)
気遣いと感謝の念をちゃんと言葉にするAちゃんの気の回しように
思わずぐっときます。

さらにブログを読みすすめると、
休日にも関わらずAちゃんは自分の宣伝に余念が無く、
セクシーな自分撮りをして写真をアップしている。

そしてだめ押しは、休日に家族とプールにお出かけをして、
“ちびっこ”二人と母親とはしゃいでいる様子が
アップされている。
どうやらAちゃんには子供がいるようです。

この仕事への献身と無邪気な私生活のバランス。
きっとK氏はこれに胸を突かれて半年もブログを追ってしまったのでしょう。
K氏は「終わりまで行く必要があった」と言いました。

——終わりって、やっぱり電話することにしたんですね?

K氏はこくりと頷いた。
「ここまで来て会わずにいたら、
今まで積み重ねてきた感情とか思いが全て無駄になってしまうと思ったんだ。
もしここで会わなかったら
いつか思い返したときに必ず後悔するぞ、とね。
安城のスターライトホテルでおれは彼女を待っていた。
部屋で待っていても性的な興奮はまるで湧いてこなかった。
もちろんドキドキはしたさ、
それにこっちだけが一方的に相手を想像していてることに変な気持ちもあった。
部屋のベルリングが鳴って、
扉を開けた。

“……そりゃそうだよな”

彼女を見た瞬間おれの中にあった謎がすべて解けた気がした。
“そりゃそうだよな”
一目見た瞬間そう頭に浮かんだよ。
何がっていうと難しいけど、
彼女がただの純粋無垢な相手だなんて思ってなかった。
思ってなかったのに、そう思わせるものがあった。
おれはイメージで勝手に妄想を膨らませていた。
だから生身の彼女に会って確認する必要があった。
彼女と会話をはじめて、
酸いも甘いも通り越したスれた言葉使いから
その並大抵ではない経験がひしひしと感じられた。
朝昼晩と何度浴びた分からないシャワーの回数、
Aちゃんのカサついた肌がそれを物語っていた。
だけどそれは表面的なことで、
もっと深いところで、
彼女の体からはシャワーと共に流されてしまった何かがあった。
おれはそう感じたね」

——何か、って何なんですかね?
本当の自分とか?

「ちがう、いや、そう、うーん。
一言では言えない、複雑な感覚だな」

——それでその後は、Aちゃんに仕事をしてもらったんですよね?

「……」

——ねえ、Kさん?

「……」

サーーー(しとしと降る雨の音)。