2014年6月16日月曜日

無口な者の愛の告白

ドイツ人の女子大生レアがオーシャンに来て
かれこれ三週間になります。
愛知に来る前には岐阜に二週間、
長野に二週間ウーフーとして農家のお仕事を手伝っていたそうです。

レアは愛知に来る前にすでに気疲れして
「日本でやっていけるか心配だった」
と言っていました。
どうしてかと聞くと二件の滞在中のエピソードを話してくれました。

一件目の滞在先は岐阜の、野菜を中心に作っている農家で、
レアの他にも二人のウーフーが働いていました。
アメリカ人のトッドという40歳の男と、
もう一人は日本人で28歳のDという男でした。

「D、ぜんぜんしゃべらない。わからない」
とレアは首を振りながら言いました。
朝昼晩の食事をみんなで食べるときも、
Dだけは一人黙々と食べ、
食器を片付け、
何を言わず寝床に戻っていくというが普通だったそうです。

小さな飲み会を開くために
レアとトッドがビールを買ってきてDを誘っても、
彼はボソボソっと何か言って部屋に閉じこもっていました。
僕が「彼の写真はないの?」と聞くと
(僕も趣味が悪いですけど)、
レアはデジカメで撮った写真を見せてくれました。

まず目につくのはトッドです。
大柄な金髪坊主の男で、台所でこっちを向いて笑っています。
Dはその隣で横を向いています。
真っ黒で短髪、メガネでうつむき気味の顔は、トッドとは対照的に暗そうです。

トッドは仕事の長期休暇で、
ウーフーシステムを利用して日本旅行中ということでした。
けどDに関しては、まず質問してもあまり答えないので
目的もよく分からない。

結局、レアはまともに会話をすることもなく、
滞在期間が終える二日前になりました。
トッドは次のステイ先に移動していたので、
この日はレアとDの二人になっていました。

朝、レアがいつものように台所でコーヒーを飲んでいると、
Dが入ってきて、
彼はレアの前に無言で立ちました。
彼は黄色い花束を持っていました。
それをレアに渡し、レアが受け取ると、
次に彼はポケットから紙を取り出しました。

折ってあった紙を広げ、
「Dear Lea……」と英語を喋りはじめました。
それは愛の告白でした。
彼は夢を話したわ、とレアは言い、
どんな夢だった!?と僕は身を乗り出して聞きました。

「初めて会った時から僕は君のことが好きだった。
君とドイツに行きたい。
広い畑がやれる家を探そう。
僕は畑を大きくする。君は家で待つ。
子供は10人欲しいな。
きっと幸せな暮らしができると思う」

Dは将来、ドイツで大農園主になり
レアと子沢山の結婚生活を送る夢を語りました。
読み終えるとその手紙をレアに渡しました。
角張っていて几帳面な字だったそうです。

レアは困りました。
Dは返事を待っているかのようにそのまま無言で立っているので、
レアははっきりとこう言ったそうです。
「私はあなたのことを何も知らない。
それなのに結婚なんてできないわ。
私はファームをやるつもりはないの。
ガーデニングは好きじゃないわ。
子供もそんなに欲しくない」

「それに、色の中で黄色が一番嫌いで、
黄色の花束はまったく嬉しくないわ!」
ということはDには伝えなかったそうです。

その日と翌日、
Dは目を合わせることもなく過ごし、
お互い次の目的地に向かって家を出たそうです。

「話しもしてないのに何で私のこと好きだって思えるの?
ぜんぜん分からないわ!」
缶ビールをぐびぐび飲みながらレアは言いました。

この次のレアのステイ先は長野です。
「She was a witch」
とホスト先の奥さんのことを言っていました。

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