2013年11月6日水曜日

電話を借りる難しさ

僕の義父は四一歳で彼のことはみんなタカと呼ぶ。
タカは元々、地元岡崎の建設会社で現場監督をやっていた。
僕の弟がアメリカの学校に行くことになったのがきっかけで、
六年前に母とアメリカに移った。

僕はもう慣れているけど、
知らない人からしたらぱっと見、
怪しく見えるかもしれない。
蝶野みたいな髭があるし、
体格も大きい。
熊の絵のパーカーも着てるし、
ベースボールキャップも後ろ向きに被ってる。
そんな日本人離れしたアメリカンな雰囲気もあるけど、
会話をすればすぐに日本人だと分かる。

でもそれだけでは足りなかった。
日本では「日本人だと分かる」だけでは足りなかったのです。
蝶野みたいな髭が理由なのか?
日本人離れした雰囲気が理由なのか?
それはよく分かりません。

タカが実家のある岡崎から僕の住んでいる西幡豆町の家まで
名鉄電車で来たのは昨日のことでした。
短期間の日本滞在なので携帯電話を持っておらず、
西幡豆駅に着くまで公衆電話で僕なり母に電話をして、
迎えを頼もうと思っていたそうです。

しかし東岡崎でも新安城でも公衆電話は見つからず、
とうとう西幡豆駅に着いてしまった。
そこにも公衆電話は無かったので、
タカは駅で一緒に降りた人の誰かに携帯を貸してもらおうと考えた。

一人目は男子高校生だった。
彼はiPodで音楽を聞いていたようで、
自転車置き場の自転車にまたがったところだった。
タカが「ちょっとすいません」と近付くと、
その男の子は驚いた感じで、急いで自転車を漕いで行ってしまった。

次は二人組の大学生っぽい女の子だった。
彼女達は楽しくキャッキャお喋りしていたそうです。
タカが彼女達に「すいません、電話を借してもらえませんか?」
と声をかけると、
彼女達は一瞬沈黙して「キャハハ、キャハハハ」と笑いながら、
そのまま去ってしまったそうです。

もしこれが僕ならこの時点で、
けっこうへこんでトボトボ歩いて帰る段階ですけど、
タカはその辺り強心臓の持ち主です。
歩くのもあまり好きではありません。

三人目のスーツの会社員は最後に出てきました。
三〇代の営業マンといった感じです。
「すいません、電話を借してもらえませんか?」とタカは言った。
一瞬営業マンは固まって、
「いや、ちょっと、会社の電話だもんですから、えー」
としどろもどろして去っていったそうです。

結局タカは歩いて帰ってきました。
タカは優しいし、穏やかな人なんです。
ただ知らない人からしたらちょっと怪しかったかもしれません。

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