2013年8月23日金曜日

上矢田怪談

たいちくんは高校に
サッカーの推薦枠で入ったこともあり、
毎日部活に明け暮れてました。
週末で学校が休みの日にも
自主トレを欠かしませんでした。

ある冬の雨が降る日でした。
たいちくんには
「雨が降っているから今日は休もう」
という概念はありません。

日が暮れた七時から八時ぐらいです。
たいちくんは防水機能のあるセットアップを着て、
ジョギングに出かけました。
上矢田町の家の周りは住宅地と農業地、工業地、
それに商業地までも一緒くたになったような場所で、
昔は町内で経済を回していたような町です。

その上矢田町には細い道が入り組んでいて、
たいちくんはあるY字の通りに差し掛かりました。
街灯が点々と並んだ道で、
決して明るいとは言えませんが、
暗闇でもありません。

遠くから、
その二叉の真ん中に人のシルエットが見えました。
なんだろう?と思ってたいちくんは
走りながら近付いていくと、
それが上半身裸になった大男であることが分かりました。
しかも白人で、スラックスを履いた男です。
たいちくんは言いました。

「ピーター・アーツみたいだった」

元Kー1選手のピーター・アーツのような大男が、
二叉の丁度別れるところに仁王立ちで立っていた。
冬の雨の中、傘も差さず何をしているのか。
たいちくんは近付くにつれて怖くなりました。

「ハイキックを食らうかもしれない、
とかそういう怖さじゃない」

たいちくんは言いました。
はじめたいちくんはピーター・アーツに見られている、
と思ったけど近付いたら違いました。
ただ無表情に明後日の方向を、
ぼーっと見ているだけだった。
雨でずぶ濡れになりながら、
ピクリとも動かずに。

「もしかしたら通り抜けた瞬間に、
追いかけてくるかもしれない」
そう思ったたいちくんは、
その不気味な大男の横を通り過ぎた瞬間、
全速力でダッシュしました。

もう大丈夫であろうと思って、
ちらりと後ろを振り返ったときです。



「わ!!!」



というのは冗談で、
ピーター・アーツは仁王立ちのまま、
明後日のほうを見ているだけでした。

「たいちくんそれほんとの話しー?」
僕は聞きました。
「そんな変なウソつかないよ。
今考えると、やっぱりあれは幽霊としか思えない。
不気味だったなー」

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