2013年8月22日木曜日

三ケ根怪談

ユリコちゃんと友達を合わせて
十人ほどの若いグループで、
心霊スポット巡りをすることになりました。
三ケ根山の中腹には[片原ラドン温泉]という、
元々温泉施設だった廃墟があります。

ユリコちゃんは小さい頃から霊感を持っていて、
自分が存在しないものを見るだけでなく、
霊的なものを引き寄せてしまい、
周りの人も感知してしまうタイプの霊感を持っている。

深夜、ラドンに着いて、
車から降りたみんなはゾロゾロと、
正面玄関の前に立ちました。
ユリコちゃんが最初に気持ち悪さを感じたのは、
廃墟の上のほうを見ると窓があって、
もちろんどの窓にもガラスは嵌まっていないのに、
カーテンがなびいている窓を一つ見つけたときです。

夏の夜で、風が無くむっとしていました。
にも関わらず、
カーテンはヒラ、ヒラ、と揺れている。
しかもそのカーテンは不自然にも、
内側にのみ揺れていて、
ユリコちゃんはそのカーテンが「おいで、おいで」
と言っているのを感じたそうです。

やめたほうがいいかもしれないよ、
とユリコちゃんは言いましたけど、
みんなノリの良い調子で行こう行こうと言うので、
その声に押されて玄関を入りました。

玄関はどうぞ入ってくださいと言わんばかりに、
開けっぴろげになっています。
その玄関を、中に通り抜けたとき、
遠くのほうで小さく「カシャーン」と、
ガラスが割れるような音がしました。

みんなは気持ちわりー、こえー、
くせー、と騒いでいるので、
そのカシャーンという小さな音ははじめ、
ユリコちゃんにしか聞こえなかった。
でも、また一回カシャーン、
そしてまた一回カシャーン、
と色んな方向から聞こえてきた。
はっと、みんなは黙りました。

ユリコちゃんが戻ったほうがいいと言って、
みんなは従い車に戻りました。
しかし車に戻ると、
せっかくここまで来たんだから最後まで見ていこうよ、
と盛り上がるグループに押されて、
結局進むことになりました。

今度玄関をくぐると、
さっきの物音がウソのように、
みんなの緊張もあってシーンと沈黙が漂っていました。
三階だったか四階まで行って戻るまで、
特に不思議なことはありませんでした。
ただ部屋数が多くて、
暗い中全部を回るのはできなかった。

けっこうな時間、
中をぐるぐる歩き回って帰ろうとして、
そこでみんなは異変に気付きました。

出口があった場所に戻れない。

入ってきた正面玄関はそれなりに広けた場所なので、
見落とすはずなんてなさそうなのに、
十人も人がいて見つけることができない。
少しずつパニックが広がって、
泣き出す女の子もいました。

とうとう男の一人が、
この壁を破って出ようと言いました。
ベニヤ板を壁に貼った場所があったので、
男三人がかりでベニヤを蹴り破って、
引き剥がしました。
そのうちのベニヤを引きはがした友達が
「あ」
と言いました。

どうしたのかと聞くと、
「いや、何でもない」と言って、
早く出ようと言ってみんなはそこから出て、
無事に車に戻ることができました。

街まで戻って、
落ち着いたところでその友達は言いました。

「ベニヤを破ったら、
コック着の男がこっちを見てたんだ。
顔がなかったんだけど、
こっちを見てるのが分かった。
今は言っちゃいけないな、と思って」

深夜の温泉施設の廃墟に、
なぜコックがいたのか。
まだ料理を作りに通ってきているのかもしれない。

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