2013年8月2日金曜日

西尾怪談

取り壊される前の白薔薇学園に
太一くんは四人の友人と
怖いもの見たさに遊び半分で訪ねた。
夏の暑い夜で、
山の麓で廃墟になっている建物に着いても、
涼しいどころか湿気で暑い。

みんなはバイクを敷地内に停めた。
建物の玄関の前はヒザの上まで雑草が茂っていて、
扉や窓の類いは一つもなくて、
外から見ると真っ暗だ。

太一くんたちが懐中電灯を持って玄関を入ると、
すぐにみんな建物の奥の窓越しに、
「ボワーンボワーン」
と黄色く点滅する光を見た。
現場工事のランプか何かだと思って、
そのまま奥の階段に進もうとした。

階段の手前まで来ると、
横目で見える光の印象が変わったのに気付いた。
「ボワーンボワーン」
と同じように点滅はゆっくりとしたままだけど、
色だけが赤くなっていた。

友人の一人である祢冝田くんは
勇気を試すようなこういう冒険が大好きで、
「上まで行こうぜ」と言った。
でも太一くんは気分が重くなってくるのを感じて、
友人の他の二人と外で待っていることにした。

太一くんたちがバイクの停めてある周りで
待っているとすぐに、
建物の屋上から声が聞こえてきた。
「おーい」
と祢冝田くんともう一人が手を振っていた。
それからパッとフラッシュが焚かれるのが見えて、
記念撮影をしているのが分かった。

二人は平気な顔で建物から出てきた。
「ぜんぜん、何ともなかったよ」
と祢冝田くんは言った。
「誰かライター持ってる?無くしちゃってさ」
祢冝田くんはタバコをくわえながら言った。

ポケットを探ってみると、
どうしてかみんながみんな
ライターが無いことにそこで気付いた。
おかしいと思いながらバイクのある場所に戻った。

バイクのすぐ手前で祢冝田くんがつまづいた。
来るときには気付かなかったけど、
ひざ下ぐらいの高さの石の台が茂みの中にあった。
そこでみんな、一瞬言葉に詰まった。
石の台の上に、
ライターが三つ三角形のような形で置かれていた。
「△」
それはみんなが無くしたと思っていたライターだった。

「ライターはいいから、早く行こうよ」
空気感の違いに敏感な太一くんは言った。
みんなの顔からも笑いが消えて、
バイクを動かそうと思った。

でも、変なことに、
バイクのセルを回してもエンジンがかからない。
キックで何回踏み込んでも、
かかりそうでかからない。
さすがに祢冝田くんも
明らかに事態がおかしくなってることに気付いて、
急いで手でバイクを押して敷地外に出ようとした。
その途中にやっとそれぞれのバイクのエンジンがかかって、
帰ることができた。

数日してから太一くんは祢冝田くんに電話で呼ばれた。
すぐ来て欲しいと言われて家に行くと、
祢冝田くんはどうしていいか分からないんだけど、
と言って記念撮影で撮った写真を出した。

祢冝田くんが屋上の手すりにもたれかかって
ピースをしている両脇に、
男が二人立っていた。
その二人の男は明らかに兵士だった。

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