2013年6月12日水曜日

三十路ブルー[上]

よく行く服屋の「two things & think」の店主と、
三十歳直前のブルーになる気持ち
(ブルーって言い方がなんだか古くさい)
について話してました。
店主の中路さんはこんな思い出話をしました。

「三十目前のときだったんだけど、
おれ東京で仕事をしてて、
仕事帰りで電車に乗ろうと思って駅を歩いてたんだ。
確か夜の八時とか九時ぐらいで、駅は混んでいた。
それで、駅をキップ売り場に向かって歩いてるとき、
突然進行方向に警備員が何人か立って、大声で、

『今から工事をはじめます。
汚れてしまうので迂回していってください』

って言ったんだよね。
その間に作業員たちがカラーコーンを並べていって、
通行禁止の札を立てたり、工事の準備がはじまった。
僕の周りにはたくさんの人がいた。
どうするのかと思っているうちに、
突然進行方向を遮断されたことを気にするでもなく、
迂回する道に向かってみんな行き先を変えて歩きはじめた。
もちろん当たり前のことだよね?
何の不思議もない、当然の成り行きだよ。
でも、僕は動けなくなったんだ。
進行方向が変わって僕の後ろにいる人がつっかえてたから、
僕はトラ柵の端にカラダを寄せた。
すぐ横では警備員が大声でくり返しているんだけど、
僕にはそれがすごく変なことだと思えたんだ。
牧君は笑っちゃうかもしれないけど、ほんとに。

『え? 何で進めないの?』

っていうふうに。
段々その、変だな、と思った感じが分かってきた。
僕はいつの間にかすごく悲しくなってたんだ。
何でそんなに悲しかったのかな?
たぶん、突然進行方向を塞がられるなんて、
考えたこともなかったからなのかな。
汚れてもいいからちょっと隅を歩かせてよ、
っていう気持ちにもなったけど、
そんなバカなことも言えないでしょ。
だから、しばらくそこに突っ立ってたんだ」

僕はこんな話しを中路さんから聞いていて、
「ふーん、何でもなさそうな出来事一つだけど、
そこまで気持ちを揺さぶられることもあるんだなー」
と思いながら、
良いジーンズを見つけて買えたので嬉しい気持ちで帰りました。

でも帰り道にふと、
もしかしたら中路さんが言ったことと同じようなことを、
つい最近僕も感じていたかもしれない、と思い直しました。
それは三十代の壁みたいなものなのか。

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