2012年7月10日火曜日

マサル(中)

追い込まれれば否応無しにアクションを起こさないといけない。
中学から高校にかけての僕の思い出を振り返ると、
どんな甘酸っぱい恋愛や友情を差し置いても、
恐怖の大王マサルが脳裏をよぎる。

予め言っておきますと「マサル」は匿名なので好き勝手言えます。
この、腕力バカ、マサル!地獄へ落ちろ!
しかし推測されては大変なのであまり言うのはやめときます。
彼は自分よりも力の劣るものを支配することにかけては天下一品でした。

そうです、まさに支配です。
絶対にこの人の監視下からは逃げられない、そう思わされるのです。
僕の人生の中でこのタイプの人間とは二人密接に関わりました。
20代のはじめに東京の会社に就職したときの社長もこういう人でした。
「この人には絶対逆らえない」
知らないうちにそんな概念が植え付けられる人です。

二人とも支配の仕方にそんな違いはありません。
恫喝&フォロー、です。
恐ろしくて震え上がる恫喝からはじまって、
すごく優しく守ってくれるようなことを言う。

こうやって書くとあっさりしてぜんぜん伝わらないですけど、
震え上がる恫喝を文章で伝えるのは難しいです。
特徴としては、
①声がバカでかいこと
②目が血走ってること
③巨体であること
これが兼ね揃うととても威圧されてる感を覚える。

声がでかいって陽気な人じゃないの?
目が血走ってるって寝不足で頑張ってる人じゃないの?
巨体って後付けじゃないの?
そう反論する人はマサルに出会わずにこれまで生きて来れたことを
幸運に思って今後の人生をお過ごしください。

彼らは自分の武器が何であるのかを知っていて、
その武器を100%活用してくる。
マサルもその社長も悪行を上げれば際限がないです。
とにかく人を追い込む。
追い込まれた人は焦りと恐怖と幻想の義務感から、
その人の言葉に従ってアクションを起こす。

自分を追い込むことが人を成長させると書いてある本はゴマンとあります。
でもこれには勘違いをしてはいけないという注意書きが必要だと思います。
人に追い込まれるのと、
好きで自分を追い込むのとでは別ものだ、という注意書きが。

誰かに追い込まれた人間は自分でも予測しなかった行動を取ります。
僕ら後輩三人のうちいつも誰か一人はマサルの手から逃れようとしていました。
いつだったか僕はマサルを無視して家に閉じこもっていました。
一週間音信不通を決め込んで誰にも会わずにいたんですけど、
とうとう寂しくなって携帯をオンしました。

するとその日のうちすぐに携帯が鳴った。
僕の同級生のNからです。
絶対にマサルと一緒にいて電話をさせられている、
これまでもずっとそのパターンだったので出ないほうが安全です。
でも僕は寂しかった。

「あ、あ、いっしん?な、何してんだよー。で、電話もなくてさー」
とNは震え+どもりでわざとらしさ満点。
「今近くにいて、えーと・・あ、あー。イデッ!」
とNが張り手をくらった姿がまざまざと浮かんできたそのとき、
「いっしん、逃げろ!出てきちゃだめだ逃げろー!」
ボフッ、ドガン、ガチャンガランガランと、
電話の向こうはかなりのスペクタクル。
「おい、おれだよ、マサルだけ(プチ)」とマサルが出た瞬間、
僕は電話を切って再び布団にもぐりこんだ。
(つづく)

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